シャクジの森で 〜月夜の誓い〜【完】
―――「アラン様・・・?どうかなさいましたの?」


「何でもない。ティアラ姫、さぁ参ろう」


アランの隣に、ふんわりとしたブロンドの髪に青い瞳の可愛い姫が立っている。

その姿は、何処となくエミリーに似ていた。

アランはティアラ姫の腰に手を当て、城の庭の中を歩いていた。

アランが時たま立ち止まって動かずにいると、ティアラ姫が顔を除き込んで何か言っている。

アランが何か言うと、はにかむように俯いてアランの腕に頬を寄せていた。



「どうですか、あの雰囲気―――良いと思いませんか?大臣殿」


「やっと、どうにか決まりそうですな。ラッセル殿」


「そうですな・・・あのお方が国に帰られたと聞いて、早速各国の姫君が妃への名乗りを次々に上げられて。そのお話を次々にお断りされた時には、この国の行く末を案じ、どうなることかと思いましたが」


「毎日大量に届く絵姿の中から、興味を示された何人かの方とお会いになられてる様ですが、この様子だと、どうやらティアラ姫で決まりそうですな・・・」



この見合いをセッティングしたラッセルと大臣は満面の笑みを浮かべて二人の姿を見ていた。

他の国の姫君にお会いになった時と比べ、今日の王子様の様子は全く違う。

何処となく嬉しそうに見え、二人が庭を散策する姿も、仲睦まじく見える。

ティアラ姫も恥じらって微笑む姿がなんとも愛らしい。

どうみてもお似合いだ。

ラッセルは二人の姿を見て、満足げにウンウンと頷いた。


「これで決まりですな―――」






「―――なんと、お断りになられたのですか!?」


謁見室の中で、ラッセルは丸い頬を揺らしてクラッとよろめいた。

あんなに仲睦まじく見えたのに、信じられない。

あのお方と姿が似ていると聞いて、信念を曲げてまでティアラ姫を推したというに。



「恐れながら何故で御座いましょう?」


「ラッセル、アランが申すには“ティアラ姫には心が震えぬ”そうだ」


「心が震えぬ?国王様、恐れながら、どういった意味で御座いましょう」


「アランの心を推し量るに―――そうじゃな・・・ラッセル、私はこう思う。“ティアラ姫と結婚しても、世継ぎの誕生は望めぬ”ということであろう」


「何と―――――!ですが、国王様、そこを国のために頑張っていただかねば・・・これではいつまでたっても―――王子様は今どちらにおられますか」


一言申し上げねば気が済まない。ラッセルはイライラと唇を噛んだ。



「アランは今、定期査察のためシャクジの森に参っておる」
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