シャクジの森で 〜月夜の誓い〜【完】
エミリーは部屋で本を読んでいた。

手には銀のしおり。

ギディオンの思い出がたくさんつまったこのしおりは、昨夜勇気を出してドレスから出した。

触れるだけで心が震えてしまうのに。

何度もためらいながら、頑張って思い切って、出した。

そうしないと、いつまでたっても前に進めない気がしたし、あの夢を見てからは、少し気持ちが落ち着いた気がする。

だから、思い切って出してみたのだけれど。

やっぱりしおりを見た途端、アランへの想いが溢れ出て、感情を制御出来ずにその場に蹲って泣いてしまった。


「駄目ね・・・まだまだ想いは振り切れそうにないわ」


銀のしおりを見つめ、ブルーの瞳を思い浮かべた。

あなたの瞳はいつも優しい・・・。



コンコン・・・


「エミリー、開けていいかしら」


「えぇ、どうぞ」


ドアがさっと開かれ、嬉しそうに笑ったエレナが立っていた。


「エミリー、あなたにお客様がきたわよ。驚かないで―――誰だと思う?」

「分からないわ。誰なの?」


人差し指を立てて得意げに笑うエレナを、エミリーは首を傾げて見た。

こんなに楽しげなエレナを見るのは久しぶりだった。

なんだかこっちまで楽しくなってしまう。



「さぁ、どうぞ―――」


エレナが脇にどくと、ブラウンの髪の背の高い男性がにこやかに笑って立っていた。



「エリック・・・!?」


「エミリー、久しぶりだね」


「エリック、あなたアメリカに行ったのでしょう?どうしてここにいるの?」


「会いに帰ってきたんだ」


エリックがエミリーの手をきゅっと握った。

エレナは二人の姿を見て、微笑みながらそっとドアを閉めた。

エミリーは信じられない気持ちでエリックを見ていた。

エリックは7才年上のビジネスマン。

高校生のときに付き合っていた人。

転勤でアメリカに渡ってしまったので、お別れしていた。



「2年ぶりくらいか・・・。俺は一度会いに帰って来たことがある。だが、そのとき行方不明で・・・心配してたんだ。一体何処に行ってたんだ?」


「わたし・・遠い国に、行ってたの」


遠い遠い国――飛行機でも船でも行けない場所。

もう二度と行けない場所。広がる青い空・・・城で働く人たちの笑顔。

電気も車もなくて電話もない、月が二つある異世界の国。
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