シャクジの森で 〜月夜の誓い〜【完】
うそ・・・・うそでしょう?


どうして・・・どうしてここにいるの・・・?


わたし、また夢を見ているの?


神様は意地悪だわ・・・こんな夢を見せるなんて・・・・。


こんな夢を見てしまったら、ギディオンに行きたくなってしまう。


会いたくて堪らなくなってしまう―――




「エミリー、迎えに参った」




「ぇ―――――?」


今何て言ったの?迎えに来たと言ったの・・・?



―――動けない・・・身体が動かない・・・。


手が・・脚が・・・震えてしまう。



息をすることも、言葉を発することもできない。


息を吐いたら・・・何か言ったら・・・



目の前の姿が消えてしまいそうで―――――




アメジストの瞳からはらはらと涙が零れおちていく。

武骨な手が頬を包み込み、そっと涙を拭った。



「泣かなくても良い・・・」



ブルーの瞳がきらきらと揺らめき、アメジストの瞳を見つめた。



「君は、私が騎士の誓いを立てた唯一の者だ。その誓いはまだ破棄しておらぬ。君がどこに参ろうと私の主のままであり、このように君を守らねばならぬ。主の在るべきところは、私の在るべきところでもある」



アランはエミリーをそっと引き寄せ、身体をふんわりと包み込んだ。

ブルーの瞳が身体の温もりを確かめるように閉じられ、ふんわりとしたブロンドの髪に何度もキスをした。



――本物なの・・・?

今、抱きしめてくれてるアラン様は、本物なの?

さっきのイベントの画像みたいに、誰かが扮装してるんじゃないわよね・・?



トクントクンと響いてくる規則的な音。

とても落ち着くあのリズム。

その逞しい胸を押して、身体を少し離してアランを見上げた。


震える手でそっと頬に触れてみた。


すべすべの肌・・・サラサラの銀の髪・・・意志の強そうな唇・・・。


腕の中はとてもあたたかい・・・・

夢で見たような冷たさではなくて、とてもあたたかくて、しっかりとそこにアランの体があった。



夢じゃないのね・・・?





「エミリー、一緒にギディオンに帰るぞ?」



今、帰るって言ったの

そんなこと・・・わたしの在るべき世界は・・・。



「今度はシェラザードではなく、この私が・・・ギディオン王国の王子たるこの私が、君を私の世界に呼ぶ。私は君に用事がある。その用事は少々の時間ではとても済ませられぬ。一生をかけて、済ませて貰わねばならぬ」
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