シャクジの森で 〜月夜の誓い〜【完】
「一生?」

「そうだ」


アランは立ち上がると、真摯な瞳を向けて手を差し出した。

目の前に差し出されてる大きな掌。

今まで何度もこんな風に差し出されてきた優しい掌。

か細い指先が戸惑いがちに揺れながら、そっと上に乗せられた。

その手をがっしりと掴まれ、ぐいっと引張られて立たされた。



「暫くそのまま動かないで欲しい。良いな?」


真剣なブルーの瞳。

アラン様は、ここにどうやってきたのかしら・・・。

どこに世界の扉が開いていたの?

わたしみたいに突然に知らない世界に迷い込んだのではなくて、自分の意思であの世界の扉を潜ってくるなんて、とても勇気のいることだわ。

わたしの家に、わたしのところに来られる保証なんて何処にもないのに。

もしかしたら、世界の狭間で彷徨ってしまって二度と戻れないかもしれないのに・・・。

そんなことを考えていると、アランの体が足元にふんわりと沈み込み、胸に手を当てて頭を下げた。

そしてエミリーの手をとり、目の高さに恭しく掲げ上げた。



「リンクとシェラザードの御名において、エミリー・モーガンの御前にて申し上げる。我が名は、アラン・ランカスター・ギディオン。ギディオン王国の王子にして、王位継承者なり。今これよりの後、エミリー・モーガンを我が主と定め、その身を襲わんとする如何なる悪意、如何なる敵、如何なる病魔、すべての災厄から、我はこの身を捧げ主の身を護らんとす。我は忠誠の意を示し、今、ここに誓いをたてる」



朗々と口上を述べ終わると、掲げていた手にそっと口づけをして、指に嵌めていたリングを外し、小さな掌に握らせた。

心なしか、リングが光っているように見える。


――これってあのときの・・・テラスでの―――


「どうして・・・?」



「前回のは簡略なものだが効力はある。だが、それでは私の気がすまぬゆえ、今のが正式な誓いだ。このリングは私の命だ。君に持っていて欲しい」


「命って・・・アラン様、わたし、困ります」


立ち上がったアランを見上げたあと、不安そうに掌の中のリングを見つめた。

これは、正装の時にいつもしてるリング。

紋章が入ってるし、とても大切なものではないの?


「大丈夫だ。誓いのアイテムの一つで、本当に命というわけでない。君に命を預けるという意味だ。大切なものゆえ、決してなくさないように」


「はい・・・大切にします」


エミリーは丁寧にハンカチで包んで、ポケットに大切そうに仕舞った。
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