シャクジの森で 〜月夜の誓い〜【完】
「それから、コレ――何故、マリア姫などに渡した?これは君のものだ。他の者に譲り渡してはならぬ」


そう言って差し出したのは、あの扉の銀の鍵。

銀の箱は無いけれど、まぎれもなくあの銀の鍵だった。



「だって、アラン様は、マリア姫と結婚することに決めたのでしょう?マリア姫とお出かけして、気が合って。身分も合うし・・・だからそう決めたのでしょう?だからわたし、あの鍵はマリア姫に渡すべきだと、そう思ったの」


「全く、君は・・・何故そうなる?」


腰に手が当てられ、すぅっと身体が密着していく。

後ろ髪に大きな手がそっと差し入れられた。



「私には君しかおらぬ」



アラン様の唇がどんどん近付いてくる・・・

エミリーは瞳をそっと閉じた。

アランの唇が最初に遠慮がちに少し触れ、何度も何度も確かめるように触れたあと、徐々に激しく絡め取られていった。


アラン様のキス・・・こっちに帰ってきてからも何度も思い返してしまったキス。

身体の奥まで蕩けてしまう・・・。

アランの背中に手をまわし、ふらつく身体を何とか支えた。

そうすると、腰に当てられた手に力が込められた。


唇を離したアラン様がじっとわたしを見ている。

とても優しい瞳・・・。



「御両親には既に許可を取っておる。ギディオンに帰るぞ。良いな?」


「パパとママに許可を?」


「君にはシェラザードの力が宿っておる。御両親に会おうと思えばいつでも会える。それに、天使の力を持った身では此方では住みにくいであろう。御両親もそれを心配しておった。良いか―――君の在るべき世界は、ここではない。ギディオン王国の、私の隣だ―――」


「ぁ・・・でも・・・わたし、一緒に行ってもいいのですか?身分がなくて、きっと負担をかけてしまいます。今に後悔することに――――っ・・・」


武骨な指がふっくらとした唇に触れ、エミリーの言葉を遮った。

驚いてブルーの瞳を見上げるアメジストの瞳。



「待て、エミリー。しっかり聞くが良い。私は君でないと駄目だ。この先ずっと、私の隣におるのは君が良い。一生を共にするのは、君でないと嫌だ」



ほんとうにいいの・・・一緒に行ってもかまわないの?



「私とともに居るのが嫌か?」


「そんなこと・・・ありません・・・」



「では、一緒に、ギディオンに参るぞ?」




「・・はい。アラン様―――――っ!?・・・あの・・銀のしおりが、あそこに・・・それに、パパとママに会ってから・・・・」
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