シャクジの森で 〜月夜の誓い〜【完】
「良い、分かっておる」


急に抱きかかえられ、そのままスタスタと家の中に連れて行かれた。

そして、リビングの窓からずっと心配そうに見ていたジャックとエレナのところに向かい、2人の前にふんわりと下ろされた。



「エミリー、あなたが幸せになるのが私たちの一番の幸福よ。よく顔を見せて」


「ママ、大好きよ」


「エミリー・・・とても綺麗だわ」


「ママ・・・ありがとう」



エレナはエミリーの顔をじっと見つめた後、ハグして耳元に唇を寄せた。ジャックも強くハグしてエミリーのブロンドの髪に唇を二度寄せた。


「エミリー、私の可愛い娘・・・幸せにおなり」


「パパ、ありがとう・・・大好きよ・・・わたし、幸せになるわ」



「式典には御両親も招待致すゆえ、是非参加して頂きたい。詳細は追って連絡致す・・・ウォルター、テラスから銀のしおりを持って参れ」



無言でテラスに出ていくウォルターの瞳に、キラッと光るものが見えた。


「王子様、何もその様に急がれなくてもいいではないですか。少々お待ち下さい。まずは、エミリーさんの診察をさせて下さい」


「フランク、診察は向こうですれば良い。世界の狭間を通るゆえ、エミリーにはその後の方が良い」


「ウォルターさん、ありがとう。フランクさんまで・・・世界の狭間、怖くなかったですか?」


「いや、あれくらい、なんてことはないですよ」


そう言うとフランクはにこやかに笑ってエミリーを見た。

その隣でウォルターが、何故か物言いたげにフランクを睨んだ。



「どうぞ、エミリー様。しおりです」


「ありがとう・・・パパ、ママ、この銀のしおり・・・向こうの世界のものよ。綺麗でしょう?」


エミリーはエレナの手に銀のしおりを渡した。

二人の瞳には涙が溢れてきている。



「まぁ、本当・・・綺麗だわ。有難うエミリー」


「パパ、ママ、いつか向こうの世界に招待するわ・・・・だから、さよならは言わないわ」


「えぇ、そうね―――エミリー・・・愛してるわ」


二人と手を握り合い、暫くの間別れを惜しむように見つめ合った。

その姿をじっと見つめて待っていたアランは、窓の外を見やり思案気に瞳を伏せた後、華奢な肩に遠慮がちに手を置いた。



「エミリー、もう良いか?」


「はい、アラン様」



そのまま肩を包み込み、二階への階段を上がり書斎へと向かった。
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