シャクジの森で 〜月夜の誓い〜【完】
おまけの話 2 <エミリーの健診>
“エミリー、一度フランクの健診を受けておくが良い。世界の狭間を通った後、しておらぬであろう。君の体調が万全でないと、心配な上に、困るゆえ・・・良いな?・・今日医務室に参るが良い”
今朝の食堂で、手を握られながら真剣な表情でそう言われ、エミリーはシリウスとともに医務室に向かっていた。
わたしが故郷から戻った後、アラン様はおかしい。
シルヴァの屋敷から帰った時に比べても、さらに過保護になってしまってる。
えっと、あれは確か・・帰ってきた次の日の夜だっけ――――――
「良いか、エミリー。式までの間は、なるべく出歩かぬように。庭に出る時は私も参るゆえ、必ず申せ。約束だ。守らないと、シリウスを罰するぞ」
強く肩を掴む武骨な手、鋭く光るブルーの瞳、とても真剣に、半ば脅され気味に強くそう言われた。
――アラン様はずるいわ。
なるべくって言ってるけれど、シリウスさんを罰するって言われたら絶対守らなくちゃいけないじゃない。
強く注意するアラン様、いつもと全く違う。
どうしてこんなに真剣なのかしら・・・。
わたしはもう、何処にも行かないのに―――
「はい・・・アラン様」
戸惑いつつも返事をしたら、肩に置かれていた手が背中にまわってきて、ぎゅっと抱きしめられた。
頭の上で、ふぅっと吐かれた小さなため息。
髪にかかる息が、熱い。
それに少し、息が乱れてるみたい・・・。
なんだかとても、苦しそう。
「アラン様・・・?」
「厳しくしてすまぬ・・・君を大切に想うゆえのことだ。分かってくれるな?」
吐息交じりの囁くような声。
そんな声を聞いてしまったら、切なくて、愛しくて、苦しくて、何も言えなくなってしまう。
コクリと頷いたら、きゅっと押し当てられていた身体が離され、顎に手が添えられた。
アメジストの瞳に映るのは、切なげに光るブルーの瞳。
徐々に近づいてくるアラン様の唇が、僅かに動いた。
「誰の手にも触れさせぬ・・・」
そっと瞳を閉じると、唇が柔らかに塞がれた。
最初は優しく触れるだけだったのが、顎から後頭部に移動した手にがっしりと支えられ、徐々に強く深くなっていく。
もう一方の手は腰に当てられ、逃さないかのようにしっかりと身体を支えている。
唇から中に入り込まれ、身体中が痺れるほどに強く何度も絡め取られ、思考も力も何もかもが奪われていった。
―――そうして、ぐったりと腕に預けられた身体を、アランがその後どうしたかは、言うまでもない―――――――
と、そんなわけで、何度かの庭の散策以外は塔から出ていない。
ドレスの採寸も、お妃教育も、すべて正室の部屋で行われた。
だから、こうして政務塔に来るのは久しぶり。
フランクさんに会うのも久しぶりだわ。
アラン様ったら、ほんとうに過保護なんだもの。
「フランクさん、いますか?」