シャクジの森で 〜月夜の誓い〜【完】
器用な手が華奢な身体を丁寧に触診をしていく。
アメジストの瞳が閉じられ、フランクのなすがままになっている。
その様子を見つめるリードの瞳。
フランクの手が額に触れ、耳元に触れ、首に触れる。
閉じられた瞳・・・ふっくらとした唇・・・・。
エミリーの放つ清楚な色香。
ただの医療行為なのに、見ているだけで、こんなにドキドキしてしまう。
やがてフランクの手が、か細い腕を取り、脈を測り始めた。
静かに時計を見ながら脈診する真剣な面持ちのフランク。
暫くの後、リードの方へ手を差し出した。
「―――・・・聴診器をください・・・。?・・・リード?」
「ぁ・・はっ、はい。すみません、どうぞ・・」
「エミリーさん、よろしいですか?すみませんが、前を開けて下さい」
エミリーがブラウスのボタンに手をかけると、ガタン――!と突然大きな音がした。
見ると、リードが頬を赤くして倒れた椅子をなおしている。
「リードさん、だいじょう――」
「エミリー、健診は終わったか?」
突然頭上からおりてきた声。
振り返ると、いつの間に来たのか、アランが後ろに立っていた。
突然来たことに驚きつつも、にこっと微笑んで見上げるエミリー。
優しさを湛えたブルーの瞳が見下ろしている。
「まだ終わってないの。でも、どうしたのですか?お仕事は?」
「気になったゆえ、仕事を抜けて此方に参った。・・・フランク」
「王子様、今から胸の音を聞くところで御座います」
「胸の音を―――?」
アランは、目の前にいるエミリーとフランク。
何故か、此方に背を向けて、赤い顔を手で押さえているリード。
少し離れたところに立っているシリウス。
それぞれを順番に、思案気に見やった。
「・・・フランク、あの助手を少し遠ざけよ。全く・・・やはり、メイにつかせ、塔で行うべきであったな」
「え・・・?」
「・・・エミリー、君は分からずとも良い」
エミリーの真後ろに立ったアランは、腕を組んだ姿勢になりフランクをじっと見据えた。
冷たい光を放つブルーの瞳。
「フランク、分かっておろうな?」
「はい、王子様。もちろんで御座います」
フランクは身震いをし、眼鏡の奥をしっかり閉じ、エミリーの胸の音を拾うべく聴診器を当てた。
瞳を閉じていても、アランの冷たい気がちくちくと肌に突き刺さる。
―――やれやれ・・・王子様にとっては初恋ですからね。
無理もありませんが。
しかし、健診一つでこの騒ぎとは・・。
この先、お子様が授かったらどうなることか、私には想像も出来ません。
城の医官も大変です。
フランクはこっそりとため息を吐いた。
fin 2012/10/8