シャクジの森で 〜月夜の誓い〜【完】
普通の人がする準備って―――

故郷のものと一緒だったら・・・



「住む家の準備、式場のこととか家電の準備、旅行の計画が思いつくけれど・・・」

「それはエミリー様の故郷のことですね。ところ変わっても一緒ですね、ギディオンでも似た物を用意しますよ」



私もジェフと結婚するときは、用意しなくちゃ・・・と呟いた後に、そういえば、みんなに聞いたんですけど、と始まって、どこの店のものがオススメであの店のものはよくないという情報を詳しく話してくれた。



「―――で、ですね、貴族の家に嫁入りするお方は一般とはまた一味違うんです。これが、とっても大変なんですよ~。自宅から全てを持ちこむんです。メイドから衣装から使用する食器まで、ぜ~んぶ。旦那様は屋敷を準備して待ってるだけ。だから、貴族方の花嫁行列はこの国の花形見物の一つなんです。派手にお菓子を配りながら行くお方もいるんですよ」


子供たちが群がって、何度も貰ったりして喜ぶんですよ、私もよく貰いに行きましたぁ・・と言って遠い目になる。



「それが王族ならば、大変なんですよ。荷物に馬車が加わるんですから」


だから、パトリック様の花嫁になるお方は大変だと思いますよ~。

あ、でもあの方なら“何もいらない。身一つで構わないよ”って言いそうですけどぉ~!と興奮気味に言って、頬を染めてふぅ・・とため息をつく。


今度の空色の瞳は、自身の指のリングに向けられていた。

まだ、日取りは決まってないのかも。



「アラン様が出掛けていたのは、ベルーガ、フレール、カルモクですよね。馬車、食器、鏡台、です。すべて城に嫁入りする際に持参するとされてるもの。婚姻後、エミリー様が使用するものです。メイドは私たちが、ドレスはいつものところがここまで採寸に来られたでしょう」






“個人的なこと”


“人と会っておる”


“届くのを楽しみにしておれ”



何をしてるのか教えてはくれたけれど、あのときはさらりと流されてすぐに追及が始まって。



“もう一度呟いてみよ”



・・・よく考えてみれば、あれはもしかしたら話を逸らされていたのかも・・・



贈り物と言っていたのに。

大したものではないって言ってたのに・・・。

アラン様がまさか、わたしのお道具をそろえていてくれたなんて、そんなこと考えもしなかった。

わたしの両親の代わりに。

お仕事でお疲れなのに、毎晩お出かけして―――
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