シャクジの森で 〜月夜の誓い〜【完】
「もうこんな時間か。そろそろ眠るとしよう・・・」
森の脇に立つ小屋の中で、リックは読んでいた本から目を離した。
壁に掛けられている振り子時計は9時半の時を告げている。
明日も早朝から植物の採取をしなければならない。
早く眠っておかないときつい。
仕事とはいえ、中腰での作業は最近特に辛くなってきた。
私も歳を取ったものだ―――
自嘲気味に笑いながら、白髪のまじった顎鬚を撫でる。
そして椅子から立ち上がると、眠そうに欠伸をした。
椅子の傍には、相棒の黒犬バロンがクッションを枕に寝息を立てている。
「今夜は新月か」
空には2つの新月が仄かな光を落としている。
小屋の外には、先も見えないほどに黒い木々が立ち並ぶ。
その先にある、動植物の保護と研究がリックの仕事だ。
ここは普段夜は無人だが、毎回新月の前後の期間だけ早朝からの作業に備えるために、こうしてここに泊まり込む。
「そろそろ着替えるとするか・・・」
リックが夜着に着替えようと手を伸ばしたその時、小屋の外から自分の名前を呼ぶ声がした。
―――リックはいるか
「誰だ・・・こんな夜に」
歳の数ほど刻まれた皺をさらに増やすかのように眉を寄せ、訝しげに頭を傾げる。
用心深く開けた扉の外に、馬に乗った人影が見える。
首元に掛けられたランプの明かりと、小屋からの明かりに照らされた馬上の人を確認すると、細い瞳がゆっくりと見開かれる。
そして慌てて外に飛び出すと、丁寧に頭を下げた。
「これはこれは、アラン様―――こんな夜にいかがなされましたか」
「森へ入る。門を開けよ」
――こんな夜に・・・?
その言葉に顔をあげてよく見ると、手綱を持つ腕の中に綺麗な娘が座っているのが見えた。
「もしや、例のあれを―――?今から向かば丁度頃合いが・・・あぁ、お待ちください。鍵を、今―――」
頷きながらいそいそと小屋の中に入ると、鍵の箱に手を伸ばした。
―”リック、凄く良いところを見つけたんだ”―
―”いいか、このことは母君にも内緒だよ”―
アラン様のあんな顔を見られるとは・・・長生きするものだ。
リックは鍵を手に満面の笑みを浮かべる。
「戻られるまで鍵は開けておきますゆえ、どうぞ―――」
ギィっときしむ音をさせ、森へ続く門が開かれた。
森の脇に立つ小屋の中で、リックは読んでいた本から目を離した。
壁に掛けられている振り子時計は9時半の時を告げている。
明日も早朝から植物の採取をしなければならない。
早く眠っておかないときつい。
仕事とはいえ、中腰での作業は最近特に辛くなってきた。
私も歳を取ったものだ―――
自嘲気味に笑いながら、白髪のまじった顎鬚を撫でる。
そして椅子から立ち上がると、眠そうに欠伸をした。
椅子の傍には、相棒の黒犬バロンがクッションを枕に寝息を立てている。
「今夜は新月か」
空には2つの新月が仄かな光を落としている。
小屋の外には、先も見えないほどに黒い木々が立ち並ぶ。
その先にある、動植物の保護と研究がリックの仕事だ。
ここは普段夜は無人だが、毎回新月の前後の期間だけ早朝からの作業に備えるために、こうしてここに泊まり込む。
「そろそろ着替えるとするか・・・」
リックが夜着に着替えようと手を伸ばしたその時、小屋の外から自分の名前を呼ぶ声がした。
―――リックはいるか
「誰だ・・・こんな夜に」
歳の数ほど刻まれた皺をさらに増やすかのように眉を寄せ、訝しげに頭を傾げる。
用心深く開けた扉の外に、馬に乗った人影が見える。
首元に掛けられたランプの明かりと、小屋からの明かりに照らされた馬上の人を確認すると、細い瞳がゆっくりと見開かれる。
そして慌てて外に飛び出すと、丁寧に頭を下げた。
「これはこれは、アラン様―――こんな夜にいかがなされましたか」
「森へ入る。門を開けよ」
――こんな夜に・・・?
その言葉に顔をあげてよく見ると、手綱を持つ腕の中に綺麗な娘が座っているのが見えた。
「もしや、例のあれを―――?今から向かば丁度頃合いが・・・あぁ、お待ちください。鍵を、今―――」
頷きながらいそいそと小屋の中に入ると、鍵の箱に手を伸ばした。
―”リック、凄く良いところを見つけたんだ”―
―”いいか、このことは母君にも内緒だよ”―
アラン様のあんな顔を見られるとは・・・長生きするものだ。
リックは鍵を手に満面の笑みを浮かべる。
「戻られるまで鍵は開けておきますゆえ、どうぞ―――」
ギィっときしむ音をさせ、森へ続く門が開かれた。