シャクジの森で 〜月夜の誓い〜【完】
時は同じく―――

ここは城の中の政務塔。

人気が少なくなった塔に灯りが漏れる窓が2つ。

一つはアランのいる執務室、もう一つは兵士長官のいる部屋の窓。

この部屋で兵士長官でもあるパトリックは、遅くまで机に向かっていた。

机の上にはウォルターの持ってきた箱が3つ置かれている。


「これが、昨年行われた試験です。これが教育資料で、これが個人成績表です」

「ご苦労様」

パトリックは箱から書類を取りだすと、個人成績表に目を通し始めた。

「パトリック様、試験内容は毎回ほとんど一緒です。教育資料も。今年はこれを変更なさるのですか?」

脇の机で大量に入っている教育資料の仕分けを始めながら、ウォルターが問い掛ける。

「あぁ、そうだ。私は、兵士には文武両道であって欲しいと思っている。この試験の内容変更は時間がかかるから、今までやりたくても出来なかったんだ。今年はアランが時間をくれてね。”兵士の改革をしろ”との仰せだ」

ギディオンでは年に1回兵士の試験を行っている。

行うのは兵士のレベルに合った実技と筆記の試験。

この結果次第で配属先の変更をしたり、昇進させたりしている。

しかし毎年試験内容はほぼ同じで、前もって対策しておけば落第することのない、言わば形だけの試験になってしまっている。

今年はこれを変更してレベルの高い試験を行い、質の良い兵士をどんどん抜擢していきたい。

そうすれば中堅の兵士はもちろん、末端の者たちの意識も良いものへと変わって行くはずだ。

「ウォルター、君にはそろそろ昇進試験を受けて欲しいんだが」

その言葉に、ピタッとウォルターの手が止まった。

「何をおっしゃるんですか!私など・・・。まだ荷が重すぎます」

「私は長年空席になっている副長官を早く選任したいのだよ」

「私など・・滅相もございません―――レスターの方が適任かと・・・」

言いながら、机の上に仕分けた書類の山を一つ一つ丁寧に揃えると、パトリックの机に置いた。

「もう時刻も9時を過ぎました。そろそろお帰りになられた方が宜しいかと。私は、まだ任務が残っておりますので、これで失礼いたします」


頭を下げると、ウォルターは夜の任務をこなすべくアランの塔に向かっていった。


「まったく、欲の無い男だな・・・」


呟くと、席を立ち上着を羽織り、部屋の灯りを消した。
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