36.0℃の熱帯金魚
板橋区役所前の駅は、自動改札のすぐ向こうにホームが見える。
キイイと、高い、ひきつれた地響きのような音が耳に滑りこんできた。
「あ、電車、ちょうどきたみたい」
「そか、それじゃ」
差し出されたカバン。
「うん」
受け取るあたし。
あの、玄関先でのキスが嘘のような、あっさりとした別れ。
それは、あたしたちが友人だから。
ガタゴトガタゴト、規則、正しく、電車は揺れる。
くずれぬペース。
メトロノームのように。
振り子のように。
規則正しく。
あたしは、我が家を目指す。
電車も。
あたしの歩調も。
あたしのカラダに打ちつけられる、コウの腰も。
すべてはそろって、規則正しいのだ。