36.0℃の熱帯金魚

***


濡れた髪にタオルをあてながら、ソファに身を沈めると、仕事の疲れがトロトロと溶け出していった。

解放感が身を包む。
休日の前夜。


「マリ、飲むだろう?」


ケイゴが、あたしにグラスを差し出す。

キッチンのシンクの上には、思った通り、白のワインボトルが置かれていた。


「うん、ありがとう」


お湯で火照ったカラダに、キンと冷えたグラスが、心地良い刺激を与える。

断熱されたマンションの部屋の中には、太陽の熱が残り、春先の寒さは感じさせない。


「……おいしい」


「だろう? ワイン、替えたのわかる?」


ケイゴは嬉しそうに言って、あたしの隣に座った。

食卓用の小さなテーブルの上にあるノートパソコンは、閉じられている。


「うーん……、前よりちょっと辛い、かな?」


「そう。スッキリした方が好みだって、マリが言ってたから」


「うん、これ好き」


「そうか、よかった」
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