36.0℃の熱帯金魚
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濡れた髪にタオルをあてながら、ソファに身を沈めると、仕事の疲れがトロトロと溶け出していった。
解放感が身を包む。
休日の前夜。
「マリ、飲むだろう?」
ケイゴが、あたしにグラスを差し出す。
キッチンのシンクの上には、思った通り、白のワインボトルが置かれていた。
「うん、ありがとう」
お湯で火照ったカラダに、キンと冷えたグラスが、心地良い刺激を与える。
断熱されたマンションの部屋の中には、太陽の熱が残り、春先の寒さは感じさせない。
「……おいしい」
「だろう? ワイン、替えたのわかる?」
ケイゴは嬉しそうに言って、あたしの隣に座った。
食卓用の小さなテーブルの上にあるノートパソコンは、閉じられている。
「うーん……、前よりちょっと辛い、かな?」
「そう。スッキリした方が好みだって、マリが言ってたから」
「うん、これ好き」
「そうか、よかった」