36.0℃の熱帯金魚
幸せの秘訣
***
土曜日は晴天だった。
青く眩しい空が、心まで明るくしてくれる。
「それじゃあ、行ってくるね」
玄関先で手を振るあたし。
「ああ、気をつけて」
あたしを見送るケンゴ。
部屋着のままでも、格好いいオーラを出しまくっている。
「ああ、そうだ」
「なぁに?」
「コートはちょっと派手な方がいい。マリ、地味目なのを選ぶからな」
「そうかな」
「派手なのも似合うよ。例えば、そうだな、金魚みたいな……」
「そんなコート、ないわよ」
「イメージだよ、イメージ」
それなら、一緒に選びに来てよ、という言葉は呑みこんだ。
「……覚えとく」
「いってらっしゃい」
「いってきます」
鉄製の扉を開けると、マンションの通路には暖かな春の光たちが戯れていた。