36.0℃の熱帯金魚
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引っ越したばかりの部屋。
新しい木の香り。
コウは、どこか自慢げに言った。
「ホラ、あれがサンシャインビル。……まあ、小さいけど」
放たれたベランダの窓からは、湿り気を帯びた春の風がなだれこんできた。
あたしは、コウの隣に立って、彼が指さした先を見つめる。
ほのかに明るい住宅街の海のむこうに、ビルのてっぺんあたりで光る、小さな小さな赤いランプが見えた。
「さむい……」
「ああ、ゴメン」
子どもをあやすようなやさしい声を、いとも簡単にコウは出してみせる。
大丈夫と伝えながら、背伸びして、あたしはサンシャインビルの全貌をつかもうとする。
「ここからじゃ遠いね、サンシャイン」
あたしは、コウに同意しながら、近付いてくる彼の熱を肌で感じている。