美味しいプライド

「こいつ、何アピールだよ？」
挑発的な文字と愛らしい写真、何ともいえない違和感にイラつき、つい独り言が漏れた
親友のあたしが、六本木のキャバクラでバイトしてることはまぁいい。ってか正直ムカつくけどまぁいい。
仮にもアイドル、というにはちょっとトウがたっているけど、女子アナ崩れみたいなレポーターの仕事をしている娘が、なんちゅーことを書くんだ。
そういうキャラで売ってるんなら別に構わないけど、かなえは自他に認めるお嬢様キャラで、実際23歳にもなるのに未だ一度も男と付き合ったことが無い。
14歳から男が切れたことが無い由美としては、かなえこそが言葉の端々で
「可愛いのに清純です♪」
みたいなアピールをしつつ、密かにそのことにプライドを持っていて
「由美は私と違ってモテるから。いいなぁ、いつも男の子に大勢囲まれて。」
なんて一見謙遜する風の口調で、結局自分のアイドル性をアピッて由美をさりげなく蹴り落としてたりするのが鼻につくこともあるけど、基本的には、中学時代から10年以上仲良くしてきた可愛い幼馴染だ。
そんなかなえが公共のネットを通して娼婦だの欲だの書いて、一体何がしたいのかがわからない。
顔写真まで出してるっていうのに。
あまりにありえなくて、いてもたってもいられない気分になってきた。
由美は風呂上りの洗い髪を片手でくるくるまとめながら、急いで携帯電話に手を伸ばす。
「酔ってんのかよ？あいつ」
自分もビール片手のくせに、こんな時間に１人で酒を飲んでブログを書いているであろうかなえの姿にひどくイラついた。
あいつは、清潔なところが売りなんじゃないのか？
とりあえず、消したほうがいいよ、って忠告してやろう。
２ちゃんねるが流行りだしてから、私たちみたいな、中途半端なレベルのプチ有名人まで、ご丁寧にあら捜しして、ネット上で周知してくれるマメな輩が現れて、ちょっとした油断ひとつが女としての市場価値を徹底的に地に落とす致命傷になりかねない。
特にかなえみたいなお嬢様系清純派にとっては、こんな炎上しかねない自己主張は誇張でもなんでも無くまじで命取りだ。