記憶〜切愛〜
━━ さ…くら?

そこには私の人生では見たことのないほどの大きな木がたっていた。

まだ季節は冬だから花は咲いていない。

ただ、つぼみが一つだけ枝に付いていた。

なんでこれが桜とわかったのか聞かれてもわからない。

ただただ、直感でそう思ったにすぎないから。

あまりにも大きなその姿にどこか懐かしさを感じる。

見たことなんてないはずなのに。



━━ チリリン…



「え?」

鈴の音が聞こえた気がした。

まわりの様子を見ても誰も鈴なんて持っていない。

私の気のせいか…

もう一度視線をあの大木に向ける。


━━ チリリン…


?。

また聞こえた。

私は大木の根元を見ようと少し体を窓の方へ傾けた。

誰もいない。

よくわからないけど心臓がドキドキする。

いやというほどに心に深く染み渡ってくるような懐かしさ。

私はこの場所を知っているのか…?

…あそこに行きたい。

私の中の何かがそう訴えていた。

「そこまで。」

女教師が終了の合図をしたとたん、私のなかの何かがはじけた。

試験の結果なんてどうでもよかった。

私は“あそこ”に行きたかった。

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