記憶〜切愛〜
渡り廊下の中間辺りにたっている彼は会場の入り口にいたあの人だった。

冷たい。

どこまでも冷たい彼の目。

心の底まで凍らせてしまうような。

なのに、なぜ彼にこんなにも私は惹かれるのだろう。

「…何してんの?」

いつまでも黙っている私に彼はもう一度声をかけた。

真っ黒な髪の毛が風にゆれてサラサラとなびく。

「あ、あのっ…。この木が気になって…」

「あっそ。」

私の言葉を最後まで聞く前に彼は呆れ顔でその場を立ち去ろうとした。

「あのちょっとま…」

私は意味もわからず彼を呼び止めてしまった。

「何。」

冷たい彼の視線が槍のように鋭く私を貫く。

それでも私は負けじと声を出した。

「あ、あなたの名前は?」

「何であんたに教えなきゃいけないの?」

私に声をかけたことを後悔しているとわかるほどに彼は嫌そうな顔をした。

そして彼は前に向き直ると後ろを振り向こうともせず、ずんずんと前へ進んでいく。

「あ…あたし…。あたし!
白石鈴音!」

何を思ったのか私は彼に向かって怒鳴るように名乗っていた。

彼はやっぱり振り向かない。

「覚えておいてねっ!」

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