記憶〜切愛〜
桜の木の下で
桜が降っていた。

入学式の少し前、私は校門の前に来ていた。

ほんの気紛れだった。

桜が呼んでいる気がしたから。

だけど、校門からじゃあの桜は見えない。

私は壁伝いに学校のまわりを回る。

裏手までくると、桜の大木の頭が見えた。

桜を見上げ歩いて近づく。

「またおまえか…」

目の前から聞き覚えのある声が聞こえた。

視線を落とすと、そこには彼がいた。



チリリン



私の動きと連動して鈴が鳴る。

「何の音だ?」

「鈴の音だよ。あなたはなにをしてるの?」

私の質問に彼は鼻で笑った。

「なんでもいーだろ?」

そういうと、彼はどこかへいってしまった。

本当に不思議な人。

私は彼の背を見送った。

私の視界にピンク色の雨が降っていた。












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