記憶〜切愛〜
自分勝手に動き回るお兄ちゃんを書き始めて30分。

まだ髪すら書けていない。

「ねぇ!動かないでよ!」

「はぁ?んなこといってたら将来モデルなんて雇っても金を無駄にするぞ?」

お兄ちゃんはこちらを見もしないで、さっきから石を彫刻刀で削っている。

顔すら見えないし…

「そーいえば30分たったな。
書けたか?」

「あっ」

ヒョイとスケッチブックを取り上げると、お兄ちゃんの顔がまた呆れ顔になった。

「まだここまでかよ…
しかもぐっちゃぐちゃだな」

「だってお兄ちゃんが動き回るから…」

私が言い訳をするとスケッチブックの角で頭を叩かれた。

「何のためにこの頭はあるんだ?記憶力を使え!記憶力を!
テスト中はモデルなんかいないんだぞ?」

お兄ちゃんの言っていることはもっともで、モデルのいない状況では自分の記憶がものを言う。

「わかったよ。書きなおす!」

半べそかきながらスケッチブックを奪い返して目を閉じた。

記憶で絵を描くときのコツ。

『まず目を閉じて』

私の記憶の中のお兄ちゃんが言う。

私がまだ小学生の時のお兄ちゃんが…







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