記憶〜切愛〜
━ 十年前 ━
私は幼い時に出会ったお兄ちゃんといつも公園にいた。
「おにーちゃんは絵がうまいねー」
「お兄ちゃんよりもっとうまいお姉ちゃんがいたんだぞー?」
お兄ちゃんはクスクスと笑いながら私の頭を撫でた。
「おねーちゃん?どんな人ー?」
幼い私は何も考えずにただそう聞いていた。
「明るくて元気で、強い子で…
いつもこのゴムを付けてた…」
お兄ちゃんは右腕についている鈴がついたゴムを私に見せてくれた。
「名前は…鈴祢…」
「すずね?わたしといっしょだぁ!」
私は何も考えずにただ無邪気に…
そうただ…無邪気に話していた。
「そうだな」
お兄ちゃんは優しく頭を撫でて笑った。
その時のお兄ちゃんが悲しいような寂しいような顔をしていたのにも気付かずに
「お兄ちゃんの絵はなー
お姉ちゃんから教えてもらったからうまくなったんだぞー?」
「わたしにもおしえてー」
お兄ちゃんは少し驚いた顔をしたけど、すぐに笑って教えてくれた。
「まず目を閉じて…」
私にスケッチブックを渡してお兄ちゃんはつぶやいた。
「イメージするんだ。一番好きなものを…」
お兄ちゃんの優しい声が耳に響く。