悲恋マーメイド
「知っているの。
私。あなたは【声】を返してあげるつもりだった」


女は淡く微笑を保ち続けたまま、そう言った。

「あなたは案じた。

私が助けましたと
あの子が告白すればふたりは結ばれるだろう。

けれどそれは本当に愛なのか。

助けたから愛した、助けられたから恋した、それは

依存関係であって
恋ではない。

本当に幸せになるには人間の男が真実の恋をあの子にしなければならない。

それにはあの嵐の夜のことは秘めなければならない。

でも幼いあの子にはそれができない。

きっと素直に言ってしまう。

だからあなたは
【声】を奪った。

あの子を人間にする対価としてと偽って。

でもあなたはふたりが本当に愛し合ったその時、

【声】を返してあげるつもりだった。

そうしてふたりを祝福してあげるつもりだった」


何も知らない無邪気で浅はかな妹姫の笑顔が、女の脳裏に蘇った。



――姉さま、見て。

東の魔法使いが薬を作ってくれたのよ。

これを飲めば人間になれるのよ。

彼と

結婚できるのよ。



「でも薬を作るのには対価が要る。
魔法薬というのは自然界との契約故に。
だからあなたは自分自身で対価を払った」
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