悲恋マーメイド
「あの子は消えた。あなたの『愛』とともに」


彼女の愛は
本物だった。

彼女の恋は
本物だった。

だから彼女は
泡になった。

自分の恋を
永遠にするために。



しかしそれはなんと残酷な仕打ちだったのだろう。



彼女はそれで満足だったのかもしれない。

愛した人を一途に慕い続け死にゆく身は幸福だったのかもしれない。

しかしならば残された者はどうなる。

妹を愛していた
女の心は。

人間を愛した彼女をそれでも愛し、恋心まで捨てた男は。


妹姫は純粋で美しい存在だった。

しかし
だからこそ

身勝手な

存在だった。

妹が死んでから女はずっと男のもとに通い続けた。

自分の妹を心から愛してくれていた男に、申し訳なくて。

彼の無くしたものの重さが痛くて。

そしてその冷たくも淋しい瞳にもう一度温かいものが蘇ることを祈って。


けれど男の心が戻ることはなかった。

それが男の愛の深さのように思えて、女はいっそう切なくなった。

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