恋愛フラグ
人生から恋愛を切り離すのはそんなにしんどい作業じゃなかった。

誰も私をそういう目で見てないのだから、私さえそれを自覚すればいいだけだった。

私を恋愛対象に見る人間はいない。

それは、期待を持たずに済む事実だった。


「その時にときめかれててもそれなりに困るんですが、そこはときめく所でしょう」

「はい?」


どこに?

お兄さんはキョトンとする私をどうしようもないように見つめる。


「国城さん、それ、アピールですよ」


呆れたようにお兄さんはため息をついた。


「面白い、とか、ツボ、とか、ウケる、とかそういうの、好きだよ、っていうアピールですよ?」


…………

……………

…………………


………いい人だ。


フォロートークと知らなければ心を奪われるところだ。


私は微笑んでみせる。


「ありがとうございます。そういう考え方もあるんだと癒やされます」

「…案外、人の話スルーしますよね」


お兄さんはカラー剤を混ぜていた手を完全に止め、手袋まで脱いだ。

そして、私の髪を手ですく。


手は優しいのに、やっぱり笑顔はやや怖い。


…なんだこの状況。


「…もう一回言いますけど、面白い、とか、ツボ、とか、ウケる、とかそういうのは、好きだよ、っていうアピールですよ?」

「…はあ」

「俺、国城さんのこと、ツボなんですが」

「……はあ」




私の間抜けな返答にお兄さんの笑顔はますますどす黒い。


「…にぶい」


笑顔のままで、低く言われた。

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