赤い狼 四
「"ひな"だろ。糞女じゃねぇ。」
その言葉を聞きながら駆け付けてきた稚春に大丈夫だ、と言って稚春から体を離す。
「糞女だろ。名前があろーがなかろーが俺には関係ないよ。
隼人以外の《SINE》の皆はアイツの事、糞女だって思ってる筈だ。現に、アイツが突然消えてから一回も糞女の話や、名前すらも聞いてない。
隼人…忘れたのか?誠也(せいや)はアイツのせいで…っ!………俺はアイツを許さない。絶対に!」
拳をきつく握り締める。
忘れたとは言わせない。あんな事になったのは全部、あの糞女のせいで起きた事だという事を。
俺は、絶対にアイツを許さない。女であろーが、アイツのした事は許されない事だ。
今にも隼人に飛び掛かろうとする自分の体を抑え込むように、拳を握り締めている掌が痛い。
未だに"ひな"の事を憎んでいるこの気持ちは変わっていないという事を再確認した。
それと同時に一つの疑問が浮かんできて唾を呑み込む。
あり得ない。そう、あり得ないだろ。
自分にそう言い聞かせながらもう一度、ゴクリと唾を呑む。
そして、ゆっくりと顔を上げて大きく息を吸い込んだ。