赤い狼 四
「いきなり、こんな展開になっちまうとは思わねぇじゃねぇか。」
「イラついてるわりには余裕じゃないか。」
「まぁまぁ、落ち着いて聞けよ。奏さんよ~。」
眉を吊り上げる奏に笑いかけて煙草の吸い殻を踏み潰す。
やべぇ。これじゃあ、何箱あっても足りねぇな。
もうこれで2箱目だぞ、と自分に呆れながら次の煙草を取り出す。
「こう見えて余裕じゃねぇのよ、俺も。内心、腸煮えくり返ってんだよ。」
「ハッ、どこが。」
あらら。今日は凄いご機嫌ななめだなぁ。
鼻で笑われちゃったよ。つーか、口調が180度違うじゃねぇか。どれだけ余裕なくしてんだよ。
これから三本目に入ろうとしてる奏の横顔を見つめる。
眉間に皺を寄せちゃって。可愛ぃ顔が台無しだ。
フッ、と小さく笑ってゆっくりと口を開く。
忘れられねぇ"あの日"を思い出しながら。
「―――奏。覚えてるか。二年前のこと。」
「……忘れるわけないだろ。だからあの気色わりぃ真っ黒な手紙を燃やしたかったんだ。」
「だよな。」
俺と奏の吐いた紫煙が空気中にゆっくりと混ざっていく。