赤い狼 四
すると、龍が私の名前を呼んで、何故か眉間に皺を寄せた。
「……何?」
その声がいつもより低くて、思わず姿勢を正す。
周りに視線を這わせればさっきまで笑っていた皆も真剣な表情で私を見ている。
無意識に固まっていた体が更に硬直した。
「…龍が言えよ?」
「分かっとるわ。ってか、そのつもりやわ。」
拓磨が馬鹿にしたように笑ったけれど、龍はそれに真面目な顔で答えて、ゆっくりと口を開く。
龍の射るような鋭い視線が私にしっかりと向けられていて、口をキツく結んだ。
「――――鐘山(かねやま)妃菜、の話だけど。」
龍の口調が変わった。
標準語になったのは、龍にとって重要な話をしようとしている証拠。
「………。」
私が"妃菜ちゃん"の存在を知っているのを、知っているのか、そうではないのかは分からないけれど。
なんとなく何も喋りたくなくて口をキツく結んだまま、龍の金色に近い瞳を見つめた。
「…知ってるんだな。」
それを何と思ったのか、不似合いな標準語で龍は一人言を小さく溢した。