赤い狼 四





「"妃菜ちゃん"が何。」




喋る気になって出した声はみっともなく掠れている。



喉が上手く機能しない。




「……ソイツは大狼の前の女だ。…その女が今、大狼に付きまとってる。」




龍が一拍、間をあけて今更な事を口にして眉を顰めた。




それは、なんとなく予想がついていたし、実と香に聞いたから知ってる。



だから私は「それが?」と素っ気なく興味なさげに問いかけた。




本当は興味ありありで、平常心を保っていられるのが精一杯なくせに。




「それがって…稚春は嫌じゃないのか?俺は大狼が稚春を放っておきながら、その女の方を相手してるのが許せない。」



「…別にいいんじゃない?私はどうせ無理やり付き合わされる事になった隼人の仮の彼女なんだし。


本命の彼女が居てもおかしくないし、それだったら仮の彼女より本命の方を大事にするのが普通でしょ。」



「仮の彼女…?」




力なく笑いながら龍を見ると、目を見開いている龍が目に入って、それと同時に要がポツリと疑問を溢した。




その声に反応して要へと目を向ける。



要の鮮やかな橙色を目に焼きつけながら出した声が微かに震える。




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