赤い狼 四
がしりと右肩を掴まれて目を見開く。
優悪がいつになく真剣な表情を見せている。
「悲しい事言うなよ。俺が稚春を必要としてるからそんな事、言うなよ!」
なぁ、と念を押してくる優悪に負けて自信がないけれど頷く。
すると、優悪は安心したように眉を下げて優しく笑った。
それが直視できなくて視線を背ける。
「…でも、隼人は私に特別な感情とか持ってないと思うよ。ただ、自分と違う人間に興味を持ってるだけだよ。面白がってるの。
だから、ネックレスを貰ってるから私が隼人の本命とか、そんなのじゃないから。むしろ、無縁だから。
それに、今回の"妃菜ちゃん"の件はいつ起こってもおかしくない事だったよ。楽しい旅行が数日で終わっちゃうように、私への興味もいつかは冷める。
ただ、今回はその時期が早まっただけ。だからあまり気にしないで。」
口ではやんわりとそう言っておきながらこの件には触れないで、という思いを込めて皆の顔を見ていく。
最後に目を合わせた朋さんが
「どんだけ気ぃ張って無理してれば気が済むんだよ。
お前が気にすんなっつってもこっちは気になって仕方ねぇんだよ。」
がしがしと頭を掻きながら大きなため息を静かな空間に落とした事によって、それは無意味へと化した。