赤い狼 四
「――――で、なんて言ったんだ~?妃菜ちゃんはよ~。」
銀の間延びた声が《SINE》のいつもの部屋に響く中、ぶるりと全身を震わす。
それを行ったことで幾分かマシになった嫌悪が今度は肌寒さを招く。
時計を見ると11時24分。
いつもの時間ならもう帰ってるはずなのに、と気分を沈ませる。これも、あの女のせいだ。
俺はあの女じゃなくて稚春に逢いたいのに。
ムスッ、と形を崩した自分の頬が稚春が恋しい。と訴える。
最近、全然逢ってない気がする。そんなに時間や日にちが経ってるわけじゃあないのに。
そんなことを思いながらもやっぱり今日はもう帰ってしまった稚春の顔が頭に思い浮かんで離れない。
その脳裏に映った稚春にゆるゆると笑顔を浮かべる。
それを見ていた奏が
「お前マジで稚春LOVEだね。」
と、いつもの可愛いキャラを取っ払って言う。
それは俺もそう思う。ヤバイな、って。
優しく頭を撫でてくれる手がないと"寂しい"って思う。
あの声を聞けないと"恋しい"って思う。
稚春に、"逢いたい"って思う。