赤い狼 四





聞いたことのない民族の名前に口を開ける。




すると隼人が



「おい、妄想族。」



もう一度同じセリフを言った。聞こえてたってば俺様族。




心の中で小さな反抗をして口を閉じる。



すると何故か隼人がそっぽを向いて「今の時間だけだ。」小さい声で言った。何が今の時間だけなんだ?




隼人の言葉にハテナマークを頭に浮かべたのも束の間、隼人が私の方に顔を向けて言い放ったセリフに頭が真っ白になった。





「おいで、稚春。」





優しく紡がれたその名前。



ふわり、微笑む隼人。





ビリビリッと毛細血管が震えた気がした。




「そ、そんな急に言われても…、」



「来いよ。」




たじろぐ私に隼人が優しさの中に少しだけ低い声を混ぜた声を出す。



その声が脳に響いてジン、と頬が熱くなった。ヤバい、死ぬ。



直感的にそう感じて目を閉じる。フェロモンが凄い。どこからそんなもの出してんだ。





「稚春。」





私の名前が呼ばれる。鮮やかな赤色をした隼人の唇からそれが紡がれていると思うと肌が栗立つ。



逃げられ、ない。





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