赤い狼 四
「やっぱり何でもないや。」
「…何だ?変な奴。」
「そうかもね。」
呆れ顔で私を見てくる隼人の顔から視線を逸らして隼人に寄り掛かる。
いつまで、これは続くのだろうか。
隼人は今、私をちゃんと見ているのかな。
……きっと、私を通して妃菜ちゃんを見ているんだろうな。
私の髪の先を指に絡ませながら頬を緩ませている隼人を見て、ツキンと胸が痛みを受ける。
早くこの苦しみから逃れたい。
そう強く願わずにはいられない。
早く、"妃菜ちゃん"が《SINE》に帰って来ないかな。
そうしたら"妃菜ちゃん"の身代わりという私の役目は終わって胸が痛む事はなくなるのに。
早く、早く。
ぎゅっと目を瞑ってそう、懇願して。
拳をきつく握りしめる。
―――隣から伝わってくる隼人の体温がやけに温かく感じた。