赤い狼 四
香が
「何しんみりしてるの~?」
って私の顔を覗いてくる。
気付かれちゃいけない。
―――この、心の叫びを。
気付いちゃいけない。
―――この、心の痛みに。
笑顔で話し掛けてくる香の声に耳を澄ませながらもう一度、ゆっくりと目を閉じる。
何も見えないように。
何も気付かないように。
「ケーキはやっぱりブシュドノエルでしょ~。」
「はぁ?あんた、結構乙女なのね。」
「どっからどう見ても頭から足の爪先まで乙女じゃん。」
「意味分かんないわ。」
二人の声がユラユラと聞こえる中、私は静かに自分の気持ちに
蓋をした。
私は高校を卒業したらこの町を出ていくから。
余計な気持ちはいらない。
「稚春、座って寝てんじゃないわよ。あんたはどう思う?」
実の声を合図に目を開ける。
「ケーキは何でもぃぃんじゃないかな。」
「じゃあ、ブシュドノエルでぃぃじゃ~ん。」
「テキトーね。」