恋愛カクテル
「ここのカクテル美味しいから、そういうところでリクエストしたいと思って」


事実を言うことで少しでも気分良くしてもらえるかと思ったけれど、


「どこだって作ると思いますよ。配合は同じなんだし」


彼の目は笑わない。

突然にして、理解した。

ああ、この人、私もさっきの女の人たちと同類だと思ってるんだ。

傷ついた、というのは違う気がする。

残念で、少し寂しかった。

この人が、言外に伝えようとしていることは、敵意と侮蔑なんだ。

目の前のカクテルをそっと見つめて、私は淋しく微笑む。

そんなふうに思わてしまっては、仕方がない。







もう、ここには来れないな…。







静かな決断は、私から肩の力を抜いていった。


「…そうですか」


短くそう答えて、あとはもう黙る。

今日で見納めかという心で店内をゆっくり眺めたり、音楽に耳を傾けたりしていると、しばらくして不意にまた話しかけられた。


「貴女にとって、カクテルとはどういうものですか?」


男性を見る。

……何が聞きたいんだろう、この人。

一瞬、悩んだが、
すぐに悩むのをやめた。

好きなように、答えればいいか。

もう二度とこの人に合うこともないという私の意識が、心の硬さを取り払っていた。


「『少女』にとっての『女性』で、『女性』にとっての『少女』です」


思ったとおり、男性はポカンとした。

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