恋愛ビンタ
しばらく経った土曜日の昼、携帯番号に見慣れない番号から電話があった。

宅配か何かだろうかと通話にすると、思ってもみない人物の声が聞こえてきた。


【…俺…っつってもわかんねえか…】


見合いのときの、乱入者だ。

わかったけれど、黙っていた。

下手に喋ったら、また傷つけられる気がしたからだ。

どうしてこの番号がわかったのだろうという疑問も、見合い相手に渡した名刺からだろうとすぐ結論づいた。

それを確かめる気も起きない。

そんなこと確かめても仕方ないし、

どんな理由であれ聞きたくない。


【…見合いのときに入って行った…】

「…何の、用でしょう」


毅然としたつもりだったのに、声は怯えたように小さくかすれた。

情けない。

悔しくて唇を噛む。


【…今から、出てこれるか?】


提案された内容に、全身が拒絶を見せる。

嫌だ。

絶対、嫌だ。

どうせまた、ひどい事を言われる。


「なんでですか」


聞き返すと、向こうは少し躊躇した。


【話が、あるんだよ…】


話って、何。


「…電話じゃ駄目なんですか」

【…電話じゃ…駄目だ】


意味がわからない。

お互い、しばらく沈黙した。

沈黙を先に破ったのは、向こうだった。


【あのときの、喫茶店、今から来れないか】


馬鹿じゃないのかこの人。

あんな所、
あんな思いした所、二度と行きたくない。


「…行けません」


それしかないというように、断った。


【…なんで】


食い下がられるけれど、気持ちは変わらない。


「…行けません…」

【話が、あるんだ】

「私にはありません」

【頼む】

「すみません切ります」


容赦なく、切った。

こういう切り方は、ものすごく後味が悪かった。

その後、何度も彼から電話がかかってきた。

全部、無視した。

無視する度に、その音で心が痛んだので着信拒否にした。


それでも心は痛んだ。

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