恋愛ビンタ
1ヶ月ほど経って、ようやく気分が上向いてきた。

さすがにあの喫茶店には行けないけれど、洒落たカフェで朝食を食べてみようかなんて気になった。

あまり来たことのないカフェに入り、モーニングを頼む。

ここの造りは隣合わせる席との仕切りがきっちりしていて、隣に誰がいて何をしていようがわかりにくい。

さすがに声まで遮断できないけれど、奥行きを尊重するカフェでは仕方ないことだと思う。

今のに私は、これくらいの孤立感が丁度いい。

モーニングタイムぎりぎりを滑り込むように、隣に人が座ったようだった。


「コーヒー」

「俺も」


その声を聞いて、心臓が止まりそうになる。

なんてことだろう。

見合い相手と、乱入者だ。

もし偶然というものが神様によって仕組まれたものなら、私はなんの試練を与えられているのだろうか。

席を変えてもらうために声を出したらバレそうだし、
出て行くときに見つけられても嫌だ。

最善の策は、彼らが出て行くまで息を潜め続けることだが、それは一番長期戦な苦痛だった。

人生で味わう苦痛の量が決まっているのなら、今その三割くらいを消費していると思う。


「…元気だせよ」


見合い相手の声が聞こえる。


「…うるせえ」


気遣いに対してそっけない返答をする乱入男は、確かに元気がないようだった。


「まだ連絡つかねえの?」


労るような問いに、


「…着信拒否されてる…」


と、どんより具合を増す。


……………?

着信、拒否?


げっ、と悲鳴を上げそうになって慌てて口を抑える。

着信拒否ってまさか、私のこと?

いや、
まさか、
でも。

その疑問に答えるように、彼らは喋る。


「だいたい、お前が見合いなんか受けるからこんな事になったんじゃねえか」

「妨害の仕方の問題だろ。お前があの人に嫌われたのは俺のせいじゃねえよ」

「そりゃ、まあ、そうなんだけどよ…」

「…着信拒否だろ?もう無理だって。望み無えよ」

「バッサリ言うな」
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