恋愛ビンタ
「あいつは、自分が仕組んだ見合いじゃない場所で俺みたいな訳わかんねえ男に権力者がどうの道徳観念がどうの事実とは全く関係ねえこと言われてけなされたんだ!なのにキレるでもなく泣き喚くでもなく冷静に受け止めて『友達の恋を守ろうとしたのはわかります』って言ったんだ!あんな出来た女ほかにいるか!」


乱入男はそこまで叫んだあと、後悔するように机を叩いた。


「あんな潔い女見たことねえ。あんな綺麗な女見たことねえ。なのに俺はあいつに何した…?」


沈痛な声を聞きながら、私はどうしようもなく赤面していた。

あんな潔い女見たことねえ。

あんな綺麗な女見たことねえ。

そんな手放しの賛辞を貰ったことなど、生きてきて一度もなかったから。

そして、唇がほころんだとき、



涙がこぼれた。



私はあのときの自分に絶望した。

泣くことも、喚くこともできない可愛げのなさに、心から惨めだった。

けれどこの人は、

そんな私を
潔いと感じ
綺麗と思い

愛してくれたのだ。


嬉しかった。


とても嬉しかった。


嬉しくて嬉しくて、涙が止まらなかった。


「過去を消したい」


彼は呟いた。


「俺が言ったことすべて無かったことにしたい。会いたい。会ってほしい。会って一発ぶん殴ってもらって、それでチャラになるならそうしてもらいたい…」


不器用な人なんだな、と、思う。

友達のために突っ走ってしまうのも、
よく考えず電話してしまうのも、
こんな所で叫んでしまうのも、

きっとこの人が不器用な証なんだと思った。

そしてその不器用さを、私はとても愛おしいと思う。
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