恋愛リップ
バレンタインデーにチョコレートを渡した。

質問と理由づけて何度も何度も職員室に行った。

手紙を渡した。

思いついて出来ることなら全部やった。

でも、先生はいつもスルリと交わして、大人の態度を崩さなかった。


だから、
テストの答すべてに

『好きです』

と、書いた。


結果、

生活指導室に呼び出された。


目の前に先生がいる。

ここには私と先生しかいない。

こんな状況なのに、ときめいた。

机の下で、先生に貰ったリップを握りしめる。

季節は春になり、夏に近づいていた。

このリップはまるで私の恋の証のように、冬からずっと共にある。


「…なんで呼ばれたか、わかるよな」


切り出しにくそうに先生は言い、私はうつむく。

私の答えを待っているのか、それとも言葉を言い淀んでいるのか、先生も黙る。

沈黙が、降ってくる。

備え付けられた時計の秒針の音だけが、急かすように響いているけれど、

私の鼓動のほうが、

少しだけ早い。
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