恋愛リップ
先生の表情は、どこか苦しそうな、つらそうな、困ったようなものだった。

どうすればいいか、どうすべきか、迷い続けているような、そんな、顔。

自分のことしか頭になかった私は、突然にして目の前の現実を叩きつけられた。

私、先生を苦しめてる。

頭の先から体温が抜けていくような感覚がした。

握っていたリップが、音を立てて床に落ちる。

私は先生を苦しめている。

私が先生を苦しめている。

絶望的な自己への嫌悪感が押し寄せた。

私は、今世界で一番私を幸せにできる人を不幸にしている。



―――――最低だ。



自分で自分に叩きつけた言葉があんまりにもその通りで、言葉もない。

私はうつむいた。


「…俺が、好きか」


あえてそう聞いてくれるのは、私の逃げ場を用意してくれるためだとわかった。

私が否定すれば先生は私を傷つけずに済むからじゃなく、私が傷つかずに済むからだと、そう考えてくれているんだと、わかった。

でも。



「……はい」



偽ることなんて、できない。

涙がこぼれた。
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