恋愛スマイル
「やっぱり行ったほうがいいよ保健室。付いていくから」


親切な言葉に強くかぶりをふる。

行けない。

行ってはいけない。

約束だから。

自分との約束だから。

それに今、先生の顔を見たら、
結婚をするという先生の顔を見たら、

わたし、

きっと、

こわれる。

目から
水滴が落ちた。

涙じゃない。

汗だ。

泣いていると思われたらまずい、と、思った瞬間、

またふっと意識が飛んだ。

倒れそうになって、持ち直す。

そんな些細な動作に命を削られているような気がした。

脈打つような耳鳴りが、頭のてっぺんまでを支配した。

肩と首が固まるような硬直感に、喉がつかえる。

息がしにくい。

目の前の色彩が単色に変わっていく。

音が、耳鳴りに飲まれる。

内臓が悲鳴をあげている。



もう、
だめかもしれない。



ぐらりと、体が揺らぐのを感じた。

顔面を、打つと思った。

どうでも、
いい気が、

した。




「…馬鹿が」




耳元で、そんな声が聞こえた気がした。
< 6 / 12 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop