悲恋エタニティ
抱くつもりなどはじめからなかった。

提案を受け入れると頷いた時点で、嘲り、貶し、軽蔑するつもりだけであんな事を言ったのだ。

孤独な姫君はそれがどんな形であれすがりついてくると思った。

男に。

人肌に。

情欲に。

それを蹴り、嗤ってやるつもりだった。

下賤な身分から嗤われる屈辱を味わわせてやる

そのつもりだった。


そして答えを待っていると、女は頭を下げた。

深く。

床に付く程に。


衝撃だった。

『人』に頭をさげられた事など生まれてきて一度もなかった。

しかも今俺に頭を下げているのは『一国の姫』。


「…な…」


ためらうことなく憤ることなくまるでそれが当然のように惜しげもなく下げられたそれに、言葉を失う。


…な、なんだ。

この女は何だ。


はじめて目の前の女に畏怖を感じた。

そして疑問を感じた。

この女はどうやって生きてきたのだ、と。


「なぜ忍に頭を下げられます」

「その提案、お受けできません」


問うが、返答は返ってこなかった。

その問いの意味がわからないようだった。

下げたかったから、下げた。

女はそんな目をしていた。

それがどんなに異質な事かわからないわけでもあるまいに。
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