死せる朝日の会
妙がどこに行ったのか? 予想はできてる。きっとあの寺院だ、根拠は無いが間違いないと思う。思うのだが、何だろうこの嫌な感じは。気持ちばかりが焦る、とりあえず一刻も早く妙を見つけたくてたまらない。いなくなった時の状況が状況だけに、心配するのは当たり前なのかもしれないが。今の自分のゆとりの無さは、何か違うような気がしていた。
全力で自転車を走らせる事二十分。すっかり息を切らせながらも、さらに結構な距離の石段を駆け上がった。すると、そこには予想通り妙の姿があったのだ。
「妙っ!」
まだ明るいとはいえ、静かな寺院に俺の声は大きく響いた。妙は特に驚くでもなく、ゆっくりこっちを見た。ずいぶんと険しい顔をしていた彼女は、慎重に口を開いた。
「来たんだ?」
肩で息をする俺に、落ち着いた視線を送る妙は、俺のよく知る表情とはずいぶん違っていた。 そして、何かを決意したような感じで。
「一回だけ聞くよ。よく考えて慎重に答えてよね。あなたは誰?」
妙の声は、今にも泣きそうだった。なのにその表情は、何かを期待しているかのようでもあった。だがしかし、妙の期待に応える事はできないと思う。きっと妙が待っているのは高柳周一ではないからだ。
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