貴方の愛に捕らわれて

猛さんの顔を見た途端、緊張の糸が緩んで全身から力が抜けてゆく。



ほんの数日前に、この車で送ると言われた時は、乗るのを躊躇ったくせに。



現金なもので、今は濃いスモークで外界と隔てられたこの空間に、心の底から安心する。



「お帰り」



『……た、ただいま』



後部座席に乗り込んだ瞬間、逞しい腕が私の腰を攫う。



あっと思った次の瞬間には、猛さんの腕の中にいた。



鼻を擽るスパイシーな香りと、耳元で優しく囁かれる「お帰り」の言葉。



突如込み上げてきた幸福感が胸一杯に溢れて、苦しくなる。



『ただいま』の一言すらも、上手く返せないほど、心が幸せに打ち振るえる。



大好きな人が帰りを待っていてくれる。それがこんなにも嬉しい事だなんて、初めて知った。



 

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