貴方の愛に捕らわれて
母は自分の事を“香奈さん”と名前で呼ばせる。
なぜなら、自分に子供がいることを秘密にしているから。
香奈さんは16才の時に私を産んだ。
父親はどこの誰だかわからない。
香奈さんが高校時代に付き合っていた、複数の彼氏のうちの誰からしい。
妊娠に気がついた時には既におろせない状況になっていて、仕方なく産んだのだと祖母から聞かされた。
香奈さんは仕事柄、色んな男の人と付き合っていて、その人達に私の事を妹だと言っているんだ。
だから私は、香奈さんの事を一度も“お母さん”って呼んだ事ないんだ。
香奈さんはいつも明け方近くに帰ってくる。だからいつも昼頃にしか起きて来ない。
私は香奈さんの為に手早く朝食もかねた昼食を作り、『行ってきます』と声をかけて無言の自宅を後にした。