怪談
トラウマ
実は長い間湯豆腐が怖かった。

見たり匂ったりするだけで胃のあたりがむかむかし、腹がざわつくような感じに寒気までしたものだ。

しかし最近母とお茶をしていた際、こんな話を聞いた。

私がまだ幼い頃の事。

風邪で高熱を出している私に気付かず、母は夕食をたらふく食わせた。

その後私は大量に嘔吐し、脱水を起こして病院に担ぎ込まれたらしい。

その時の夕食が、湯豆腐だったそうだ。

その過去を私は全く覚えていない。

成程。

私の湯豆腐嫌いはトラウマであったのか。

妙に納得したものだ。

だがその話を聞いてから前ほど湯豆腐が怖くなくなった。

トラウマというのは原因がわかるものに限り克服が可能なのかもしれない。

というような話を、友人との飲みの場で披露した時だ。

友人のYが、


「実は自分にも理由はわからないが怖いものがある」


と言いだした。

それは何だと聞くと、


「『はいはい』が怖い」


という。

『はいはい』とは、あれか。

四つん這いで歩く、あの事かと聞くと、そうだと答える。

ほう、何故だろうなと呟くと、


「実は原因となる出来事を少しだけ覚えている」


という。

言ってみろと言った。


そうしてYの話が始まった。


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