怪談
らくがき
Yドクターの話である。


飲み屋で少々飲んだ時だ。

家は遠くないので歩いて帰ることにしたという。

深夜なので幸い車もほとんどない。

酔いに火照った顔に初夏の風が心地よかった。

ふらふらしながら、そういえばこの十字路でつい最近子どもが轢き逃げにあうという
死亡事故があったななどと思い出していたときだった。

奇妙な音が耳に流れてきた。


がり

ざり


というアスファルトをおろすような耳障りな音が夜の闇を乱している。


なんの音や?


音のするほうを見ると小さな少年がうずくまって地面に何かを書いている。

やたらと耳障りな音を産むそれはどうやら古い瓦の破片のようだ。

それを使って何かを書いている。


しかし、こんな時間に子ども?


不信に思って近づき書いてあるものをのぞきこんだ。

それは文字だった。




『はんにんをさがしています』




ぞっとした。

その子どもが轢き逃げにあった本人なのか、はたまた兄弟なのか、また全く関係ないのかはいまだにわからない。

ただ、あんな幼い子どもが、あんな深夜に、無心で地面に大きく




『はんにんをさがしています』




と丁寧に残している事が、

ただただ
恐ろしかった。


あの少年は犯人を見つけたらどうするつもりなのだろう。


そう思うと、いまだにぞっとするそうだ。





< 27 / 32 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop