怪談
深夜1時頃の事だという。

昼寝をしてしまった為なかなか来なかった眠気がやっと訪れた時だった。

右耳の近くで気持ちの悪い音がした。

一瞬にして全身に鳥肌がたち、痛みを感じるほどに背中と肩に寒気が走る。


ーーーなんの音!?


聞いたこともないような音だったという。

どういう音と聞かれてもうまく答えられないが、とにかく気持ちが悪い。

全身が震えあがるほど気持ちが悪い。

声ではない。

音だ。

気持ちの悪い、音だ。


ーーーなに!?

何なん!?
なんの音!?


あまりの気持ち悪さにEはそればかり思った。

音というものがこんなにも不気味で怖いものだなどと感じたことがない。

例えようもない気持ち悪さのそれを、Eは『本能的』に『こわい』と思ったという。

あまりに気持ち悪く怖いため、飛び起きて電気をつけた。

別に何も変わったところはなかった。

音がした場所には、寝る前までEが読んでいた、105円の例の古本があった。

なんとなく気持ちが悪いので、次の日Eは古本屋にその本を売りに行くことにした。

買い取りカウンターにそれを置くと、店員たちに嫌な顔をされる。

一冊だけ持ってきたうえに、もとはここで買った105円の品だ。

嫌な顔をされても仕方ない。

しばらく店内でお待ちください、16番様でお呼びしますといわれ、その場を離れる。

だが、たった一冊なのに時間をかけられることに納得がいかず、どれくらいかかるのか聞こうとレジに近づいた時だった。

店員たちの、落胆したような会話が聞こえてきた。



「またこれ、返ってきましたね」



………また?



「また、って、なんですか?」


思わず聞き返すと、店員が明らかにまずったという顔になった。


「え…また、って…」

「16番様、計算終わりました」


問い掛けを打ち消すようにそう告げた店員たちは、何やらひそひそやったあと105円をEに返して業務に戻ってしまった。

105円で買った中古の品を105円で引き取ってくれることなど、ありえない。

その時はじめて、あの本には何かいわくがあるのだと確信したという。


「その気持ち悪い音ってどんなん」


食い下がって聞いた私に、Eは深く悩んだあと、物凄く言いにくそうにこう言った。



「人間をゆっくり…」



それ以上、Eは続けなかった。


「古本、気いつけたほうがいいですよ」


Eの売ったその本の題名を聞き出した。

とりあえず私は、それだけは決して古本屋では買わない。




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