虹のふもと

ここの病院にきたばかりの時は、一日中ぼーっとしていて、すぐに目を閉じてしまったり、車椅子に乗ったままよく寝ていた。
つじつまのあわなかった会話も今ではなくなって、種村さんは私の相談相手の一人だった。

「種村さん、歩くリハビリはどうです?」
「うちのバアさんは、少しは上手くなっているって言うし先生方も言ってくれるけど、自分ではよくわからなくてねぇ。」
「自分ではわからなくても、周りの人は嘘つかないから。毎日疲れてしまうかもしれないけど、少しずつ頑張りましょうね。」
「まぁ、来た時に比べたら良くなったよね。始めの頃はいつも有木ちゃんに起こされていたらしいもんね。」
「そうですよ。なかなか名前も覚えられなかったですしね。」
遠くから車の音がして、近くに止まった。
「おじいちゃーん!!」
ワンボックスカーから降りてきた小さな子がこっちに向って走ってきた。
「あ、種村さん。お孫さんだ。」
「ん?どこ?」
「ほら、左左!」
「……。んー。お!ユウキ!!」
お孫さんは駆け寄ってきた。
「おじいちゃん、1番になったの!ほらこれで。」
「おぉ、かけっこかぁ。頑張ったなぁ。パパも足が速かったから、ユウキはパパに似たのかな。」
「イェーイ!おじいちゃん、握手!」
「はいよ。」
右手で左手の指をぐっと開いて、種村さんはユウキくんと握手した。


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