虹のふもと
 チャイムと同時に、教室を出て、急いで電車に乗った。
「どうした!?」
家に帰ると、ソファの上で泣いている妹。
怒り顔の母、
うつむいた父が食卓の前にいた。
「生きてたのか。」
思わず声が出た。
「いや、死んだ方が良かった。」
母は静かに言った。
「お父さん、拘置所にいたの。」

え?なに?
コウチショ?

何のことなのか…頭が真っ白になった。しかし、理由を聞く前に私の頭の中には答えが生まれた。
「お酒に酔って、痴漢で逮捕されたって。」
なぜか、私の中の答えと一致した。
「こんなになる前に別れたら良かったね!」
母は聞いたこともないくらいの声を上げ、父を睨みつけた。ずっと俯いた父は、ただただ瞬きを頻回にした。
「申し訳ないけど、酔っていて覚えていない。でも、警察の人が説明をしてくれて、覚えていないからハイというしかなかったんだ。ほんと、情けないけど…。」
久し振りに父を見た気がした。
何時間も話しをする中で、目は合わなかった。
何か解決するわけではない。
何か変わるわけではない。
でも、変えなければ母は過労死しても、この父だけは生き延びてしまう。そう思った。

 あれから父の部屋にこもりきる日々は再開した。益々ひどくなった。会社に通っているらしかったが、家族は誰もその内容を知らない。
「今月も給料が入らなかった。ごめん。」
そう言って、相も変わらず父は私達の前でため息をついてみせる。相変わらず自分を甘やかしている父が許せなかった。ごめんの言葉も聞きあきた。
「だから待てって言っているだろ!今、取り引をしているんだ!」
少しでも問いただせば、父の声はどんどんと荒いでいった。それと比例するように、また酒の臭いがした。

 「もういいでしょ。」
母は、父に緑色の用紙を手渡した。
「は?」
その用紙を手に取り、顔をあげた。
「もういいじゃない。黙って書きなよ。」
「そうだね。じゃあ、出て行ってください。」
私は父に手をあげ、父は私に手をあげた。
「なんでそんなこと言われなきゃいけないのよ!」
どんな顔をして、彼のことを見ていたのか想像がつかない。
「あなたはもう成人するんだから、勝手にしたらいいだろ!私に頼る年じゃないだろ!」
何年も前から、もう父を父と思えなかった。
「誰がお父さんに頼っているのよ!いい加減にしてよ!誰が今この家を支えているの?どうして大きな顔してご飯が食べれるの?信じられない!」
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