彼の瞳に捕まりました!
もう聞きたくない。
この場から立ち去りたい。
そう思っているのに、足が床に張り付いてしまったかのように動けなかった。
サトコちゃんの声は聞こえない。
代わりに、衣擦れの様な音がかすかに聞こえたかと思うと、
「あっ!」
と、甲高い声が響いてきた。
その声に、ハッとして慌てて廊下に飛び出した。
高瀬が、言い寄ってくる女の子達を拒まないなんて、今更。
大学生のころからそうだった。
私はそんな高瀬にたまたま獲物にされただけ。
高瀬にとって見たら、ゲームのコマのヒトツにしか過ぎない。
ただそれだけの女。
たまに優しいから。
何も考えられなくなるようなキスをするから……
ちょっと勘違いしてしまったんだ。
恋愛に不慣れな女だから―――
高瀬に取ってみたら、格好の獲物だったに違いない。
やっとわかった現実に、自分が情けなくなって笑えた。
なのに、いつの間にか溢れていた涙に胸が痛くなった。
編集部の高瀬のデスクにコンビニの袋を無造作に置いて自分のデスクに戻る。
途中でやめていた仕事をするためにパソコンを凝視してそれだけに集中した。
少しして、サトコちゃんが戻ってきて「おかえりなさ~い」と甘ったる声で話しかけてきた。
そんな彼女に」「ただいま」とだけ返事をした。
彼女からは、現像液のにおいがかすかにして……
そのにおいに、泣きたくなった。